トマ子

 警備と言っても、ただ広い駐車場に突っ立っているだけだ。暑い日も、寒い日も、麗らかな日も、雨の日も、風の日も、ボーッと突っ立っているだけだ。突っ立っていると時々近所の猫が懐いてくる。駐車場の向かいに三件並んだ真ん中のお宅の猫で、何て名前か知らないが、私はトマ子と呼んでいる。路上観察額回のトマソンとは関係ない。トラのようでもありマダラのようでもある中途半端な毛色をしているのでトマ子。おそらく中年の雌だ。中年と断定している理由は、トマ子は若い頃かなり太っていたのではないか、飼い主さんが「これじゃいかん」とトマ子の身を案じたのだろう。彼女はそれに応えるべく、努力して(させられて)ダイエットに成功したものと思われる。本当に太っていたのか、ダイエットしたのかは、本人が口を閉ざしているので確認は取れていないが、まあ、そういうことで。
 トマ子が歩くたびにお腹の小さなたるみがプルプルと左右に小刻みに揺れる様が可笑しくてたまらない。ダイエットには成功したものの、若い頃のように肌の弾力はなく、余った皮は腹にぶら下がっているのだろう。
 トマ子は雨の日以外はほぼ決まった時間になると巡回を始める。巡回のコースも決まっているみたいで、3つくらいのコースに分かれているようだ。
1つ目は駐車場に入ってさくを超え民家を回るコース。
2つ目は駐車場を突っ切ってパチンコ屋の裏の民家を回るコース。
3つ目は左隣の家を経由して畑を回るコース。
 どのコースも途中、気まぐれに寄り道したりして正規のルートを少し外れたりすることもあるようだが、私も巡回中に山を眺めたりお客さんと立ち話をすることがあるので猫も人も巡回するとどこかで少しルートを外すものなのだと思う。
 猫だからかなり気まぐれである。トマ子とはマブダチだと思っているが、巡回中、駐車場の隅で行き会ったりすると挨拶するのだが、日によっては視線を合わせることすらなく無視され、素通りされたりすると、少し寂しい気持ちになる。いつもはゴロニャンなどと言いながらゴロンと腹を見せて、時には甘噛みしてくるのに目も合わせてくれないまま脇を素通りされる日は、楽しかったあの頃を思い、私は寂しさに目に涙を浮かべたりするのだ。


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