ガラスの靴ではないけれど

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 11月も後半に入り冷え込みが厳しくなってきた。知原(ちはら)の高台や田原の蔵王山展望台からは南アルプスの白い山の姿が鮮明に浮き上がる。
 歩き回っていないと寒くていられない巡回の歩数も2万を超える。そんな時に店から呼び出され、大急ぎで店内に入り、用事を済ませて巡回に戻ったところで軍手の片方がない。呼び出し前後のドサクサで落としてしまったらしい。当然だが、呼び出しを受けたら速やかに店内へ向かわなければならない。モタモタしていてはいけない。でも年寄りだからモタモタする自覚があるだけに必要以上にモタモタしていてはいけないという意識が働き、それがむしろモタモタを助長させる。冬は防寒着やらなにやら身に着けるものが多くなる。厚着のまま店内には入れないので、大急ぎで脱いで、脱いだものは所定の場所に置かなければならない。巡回中に呼び出されると、防寒着などを脱ぎながら所定の場へ移動し、脱いだものを置き、そこから店内に向かうことになる。きっとそのドサクサとモタモタで片方の軍手を落としてしまったのだ。冷え込んだ最中に軍手なしでの巡回は辛い。巡回は動くのでまだいい。立哨や交通誘導を素手でやるのはもっと辛い。とりあえず巡回しながら探すが見つからなかった。陽も沈み冷え込みも厳しくなった頃、掃除のおばさんが「警備員さん、これ落としたんじゃないの?」と軍手を差し出してきた。私の軍手だった。店の入り口付近に落ちていたらしい。「あったかいコーヒーでも飲みながら頑張ってね」。軍手と一緒に缶コーヒーをくれた。「鳩の死体の後始末をしてくれたから」と、たこ焼きをくれたりする。気の良いおばさんである。背中や腰が曲がりかなり縮んでいるが、元気なおばさんである。会話の最中、おばさんの顎は動いているのに上下の前歯が唇に抑えられて静止して見えたりして、外れないか心配になったりもする。緩めの入れ歯で時々何を言っているのか聞き取れないこともあるが気の良いおばさんだ。いつもお世話になってるからと缶コーヒーまでくれた。有難いことだが、少し恐縮する。
 シンデレラは靴を忘れて王子様と結ばれたが、私は軍手を落として掃除のおばさんに缶コーヒーをもらったのだ。それなりに心温まる話だと思うが、シンデレラを引き合いに出すのはどうかとも思う。


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