興味のない人にはつまらない話

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 ベートーベンの交響曲第六番「田園」をネットで聴き比べた。1953年録音のカラヤンとフィルハーモニア管弦楽団、カール・ベームとウィーンフィルハーモニー管弦楽団、ブルーノ・ワルターとコロンビア交響楽団、フランツ・コンヴィチュニーとゲヴァントハウス管弦楽団(モノラル)。
 私が初めて自分の小遣いで買ったレコードが「田園」だった。中学2年か3年か、その頃だった。音楽の授業で「田園」全曲を鑑賞。初めて聞いた「田園」という曲に流れる暖かさに心を揺さぶられた。初めて買ったレコードがLPである。価格は800円くらいだったろうか、中学生の身からすれば高価な買い物だ。これでひと月分、それ以上かもしれない。その間無一文である。どうやって過ごしていたのか。毎日買い食いしていた当時の自分を思うと不思議だ。まあ、小遣いに不自由してまで「田園」を聴きたかったのだろう。家にはもちろんステレオなんてハイカラなものは無い。昭和四十年代前半のこと。父が質屋で買ってきた小さな電蓄だ。SP用の78回転、ドーナツ盤(シングル)用の45回転、LP・ソノシート用の33回転で聴ける電蓄だった。当時家にはまだSPが何枚か残っていて、その中にはピエルネの「小牧神の入場」やラヴェルの「ボレロ」もあり、管弦楽の音色には馴染みがあった。小さなころからラジオから流れてくるオーケストラの音色が自分の感性に合っていたのかもしれない。バカだけどバカなりの感性というものがあるらしい。だからクラッシック音楽に対してもあまり抵抗感はなかった。音楽の授業で楽器を演奏したり歌ったりするのは嫌いだったが、レコード鑑賞に限っては楽しみな時間でもあった。中でも「田園」を聴いたときが一番の感動だった。それがいまだに影響している。
 50年も前のことだ。記憶の方で時系列の前後が曖昧になっているので当てにならないものもある。
 「田園」に出会う前か後かこれも判然しないが、伴という音楽教師がいた。クラッシック音楽といえば難しい、高尚、御高い、というイメージが巷では憑いていた。私のようなガキが手を出すには、私がどうというより、周りの人たちの意識が、といった方が正しいのだが、私が手を出すにはハードルの高い世界だった。それを取り払ってくれたのが伴先生だった。この話も以前書いたことだが、シューベルトの交響曲第八番「未完成」とチャイコフスキーの交響曲第六番「悲愴」をそれぞれ第一楽章を聴き比べをした際に伴先生は「未完成」を初恋に例え、「悲愴」を大人の恋に例えてこの二曲の比較をしたのだ。その話から子供心にクラッシック音楽はだれでも自由に聞いて、単純に良いと思ったら、自分なりの解釈で聴いていいんだということを、なにしろバカだから「カイシャク」などと難しい言葉はもちろん頭に浮かばなかったはずだが、クラッシックは難しいという偏見を消し、おおむねもっと気楽に自由にクラッシック音楽を楽しんでいいんだ。ということを伴先生は教えてくれたのだ。
 ときどき下ネタを言ったりすることがあったので、一部の女生徒からはあまり好かれていなかった伴先生だが、私は感謝してもしきれないほどの恩を感じている。ただ、「未完成」が初恋、「悲愴」が大人の恋、に例える感覚は、当時の私には理解できず、なるほど、と納得できるようになるまで10年かかった。
 チンコに毛が生えるか生えないか辺りのガキに大人の恋の話など解るわけはないで。当然だ。

 当時、もちろん演奏云々、音質云々など、なにも判らない。ただ「田園」が聴きたい一心でレコード店で「ベートーベンの田園をください」と注文して店員さんから渡されたのがフランツコンヴィチュニー指揮、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団演奏のレコードだった。あくまで「田園」に興味があるのであって演奏者のことなどは意識外だ。ステレオ録音だったかモノラルだったか覚えがない。父の小さなトランジスタラジオか電蓄でしか音楽を聴いたことのない耳だ。ステレオもクソもない。それでも小さな電蓄の箱の隅の更に小さなスピーカーの奥の遠いところから聞こえてくるオーケストラの響きに魅了されていたのは間違いない。これをきっかけに高校に入ってからも少ない小遣いで食欲との葛藤と闘いながらいろいろな曲に出会い、演奏者と曲の関係だったり、同じ曲でも演奏者によって全く表情が変わるものだということを、いろいろな楽しみ方を知るようになる。高校2年か3年で初めて買ってもらったポータブルステレオで右のスピーカーから聞こえてくる音と左のスピーカーから聞こえてくる音が違う事で立体的に聞こえるステレオというものの凄さにビックリし、感動し、ますますオーケストラの音色の魅力にはまって行ったのだ。さらにレコードからCDへと変化し、音質もどんどん良くなってきた。今では安いCDプレーヤーでもイヤホン次第でいい音が聴ける有難い時代だ。



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