楽しかったあの頃・・・

画像

青春時代は失恋の涙で枕を濡らしたものだが、齢六十を過ぎた今、ヨダレ鼻水で枕を濡らす春の朝。薄墨を流したような春の空に呼応するように泥水を流したような頭の中。
歳をとって目が利かなくなり、手元もおぼつかなくなる。今日はチャーハンでも作ろうかとスライスハムを指先で剥がそうとコジコジするがなかなかうまく剥がれず途中で破れてしまい上手く剥がれない。玉ねぎの薄皮を剥がすのにも一苦労。頭の中身が薄くなると薄いものを剥がすのにも手間取るようになってくるものらしい。自らの動きの緩慢さに苛立ち、怒りが込み上げてくる。
チャーハンでも。
「でも」と軽い気持ちで始めた作業が難航し、思うようにはかどらないもどかしさでやり場のない怒りが込み上げるのである。
これだけ苦労して制作したチャーハンである。さすがに不味い物にはならない。が、あれだけ苦労して作り上げたチャーハンは食べだすとあっという間に終わってしまう。スライスハム、玉ねぎの薄皮を剥がすのに手間取り、作るのに数十分を費やしたチャーハンは食べだすと数分で終わってしまう。あまりにも一気に食べてしまったので時間を持て余す。空になった皿を見つめながら、楽しかったあの頃、美味しかったあの頃を一生懸命に思い出そうとする。が、歳をとって記憶力の低下で数分前の幸せを思い出すことができない悲しみ。世間的には悲しみの向こうに何があるのか知らないが、私的には悲しみの向こうにあるのは込み上げる怒りと諦めということになっている。幸せだったあの頃にはもう戻れないのである。
こんなはずではなかった。もっと味わう時間があってもいいのではないか。こういうところに世の中の不条理というものを感じずにはいられない。
思うように薄いものを剥がすことができず、細かい作業に手間取るようになると、次から次へと小さなことにいちいち神経質になり、小さな成功に大きな喜びを感じるようになり、小さな失敗に大きく落胆をするようになる。苦労して作り上げたチャーハンを一気に食べ終わってしまった後の「え、もう終わり?」という大きな落胆を覚えるころには、もはや大きなことを考えることのできない人間になってしまっているような気がするのである。





ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 2

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
ガッツ(がんばれ!)

この記事へのコメント

ピロ身
2016年07月01日 01:51
お久しぶりです(^-^*)/
玉ねぎの薄皮は流水にあてながら剥くとむきやすいですよ。あと私はチャーハンはの具は玉ねぎではなく葱が好みです。
heartscape
2016年07月04日 12:29
ピロ身さんお元気ですか?
葱の方がいい香りがして私も好きなんですが、日持ちがしないので一束買ってきても食べきらないうちに半分くらい駄目になってしまいます。いろいろ保存方法を工夫してきましたが、どうにもなりません。もっと良い保存方法がないかな。

この記事へのトラックバック