ホットで・・・

画像

喫茶店に入ってきた大学生風の若者に違和感を覚えた。
今どきの若者達は、ファミレスとか、そう云う所に行くものだと思っていたので、意外な光景だ。
40年前、50年前なら、ジャズの流れる薄暗い喫茶店で、ムツカシイ顔をしながらコーヒーを飲む大学生の姿は当たり前のようにあった。
テーブルには冷めたコーヒーとハイライトの吸い殻が山のようにたまった灰皿と店の名前の入ったマッチ。マルクスとかレーニンとかムツカシイ本や詩集に視線を落とし、咥え煙草の煙が目にしみるので、時々しかめっ面になるが、しかめっ面しなくてもコムツカシイ顔はやっぱりイカツくて、時々頁をめくる仕草が、まだ高校を卒業したばかりの私にはカッコよく見えたものだった。
そんな姿に憧れて私も真似をして、川上宗薫の本をめくりながらコムツカシイ顔をしたものだが、誰からもカッコイイとは言ってもらえなかった。やっぱり表紙が「夜ごとの肌」という題名だったのはまずかった。
いきなり話がそれてしまった。

今どき喫茶店に入ってくる若者は珍しい。
Tシャツにジーンズ姿の若者が唐突に入ってきた。財布の小銭をまさぐりながらカウンターのお姉さんに「ホットで」。と、注文すると奥の席に着く。普通なら「こんな暑い日にホッとかよ」と思うところだが、「ホットで」という若者の少し野太い声が、BGMの流れる店内にしみわたる。
「ホットで・・・」。
コンビニで若者たちがお金を支払うときに、小銭の持ち合わせがなく、「千円で・・・」と、店員に札を渡し、釣銭を受け取る光景をよく見かける。もちろんこの「千円で・・・」は「千円札しかないのでお釣りをください」という意味であることは十分承知している。
「ホットで・・・」というのは「コーヒーをホットで注文します」。
それにしても、この「〇〇で」と言う若者が多い。かくいう私も「○○で・・・」と言ってしまうことがあり、言った後にやっぱり言い慣れていないせいだろう。「○○で・・・」の後、ちょっと気持ちが悪い。
元々日本語の、特に話し言葉の文法はいい加減な扱いでも通じてしまうもので、聞き慣れない「ホットで・・・」に気持ちの悪い思いをしてもこの言葉遣い対して特に咎めることもないまま、だんだんと世間に浸透していくのだろう。

昔の若者たちは喫茶店に入るとムツカシイ本のページをめくり、高校を卒業したばかりの私は川上宗薫の本のページをめくり、今どきの若者たちは携帯画面のページをめくる。
時代だね。



あ、そういえばコンビニで店員が「千円からお預かりします。」とは言わなくなったナ。やっぱりこれは誰かが気付いたんだろうね、「このからはキモイよね。」って。








この記事へのコメント

この記事へのトラックバック