石塚亮 よしなしごと 心の風景          

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<<   作成日時 : 2015/06/29 07:43   >>

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幼い頃、雨が降ると水たまりのできる砂利道ばかりだった。道路の脇には土のドブが流れイトミミズの集団が球を作っていた。夜になると、外にも家の中にも必ず闇が潜んでいた。掃除機も洗濯機もない。はたきと箒、タライと洗濯板。まだ町中が今よりもうんと静かだった。

こんなことを思い出すと、さすがの私もちょっと切ない気持ちになってきてしまう。
昔、母はよく歌をうたっていた。どんな歌をうたっていたか、あまりよく憶えていないが、縫い物をしながら、掃除をしながら、炊事をしながら、あるいは買い物途中の道すがら、銭湯の帰り道で、月見草を手にしながら・・・。
歌っているときの、控えめで温かい声に微笑みを浮かべた穏やかな母の顔は、今でも時々思い出す。

そういえば、昔のおばさんたちは生活の中で、いつでも、どこかで、よく歌をうたっていた。
市営住宅の前を通りかかると、勝手口で歌をうたいながら洗濯するおばさんの姿。窓の隙間から微かに聞こえてくるおばさんの歌声。おばさんたちの歌はたいがい、家事をしながら口ずさむ。家の中は柱時計が時を刻む音と、おばさんが箒を掃く音だけ。そんな時に自然と歌が、おばさんの口をついて出てくる。
おばさんにとって家事をしながらの歌はまさに労働歌だったのだろう。

四六時中、何かしらの音が溢れている今、おばさんたちは歌をうたわなくなった。








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