不意に秋はやってくる

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陽もとっぷりと暮れる時刻になると、そこらじゅうからコオロギの声。
仕事帰りの疲れた身体で、ヨロヨロと玄関を開けると、闇と静寂に包まれる。
フーッと溜息をついたところで、足元から、いつどこから入ってきたのかコオロギの声がひとつ。
閉じられた闇の中で、その声は耳元で鳴いているのではないかと錯覚するほどひときわ大きく聞こえる。
ひとしきり鳴いては静寂が広がる。そしてまた鳴く。そしてまた静寂が広がる。暗闇に立ちつくしていると意識が遠のいてしまいそうになる。
これはほんの一瞬の出来事。
もう一つフーッと溜息をつきながら靴を脱ぎ、上がり框に足をかけたところで、滑って框の角にスネを強打。あまりの痛みにうずくまると今度は顎を框の角に強打。下目蓋から火花が出る。
闇の中でオヤジのうめき声とコオロギの声が静寂を切り裂く。
頬を伝う涙は果たして痛みゆえか、あるいは闇の寂寥感ゆえか。
さあどっちだ。
溜息をつかせ、夕暮れ時に寂寥感と痛みを伴って不意に秋はやってくる。



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