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zoom RSS 入れ歯を鳴らすお爺さん

<<   作成日時 : 2017/07/13 12:59   >>

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 もう何十年もの間満員電車には乗っていない。つり革につかまりながら、押されて、突かれて、揉まれて、踏まれて、隣に若い女性でもいれば痴漢に間違えられないように気を使って、あるいは体臭を発散させるおっさんが居ればその匂いに咽ながら、我慢の限界を彷徨うのは、あっちこっちネジが緩んで劣化した老体と、薄弱な神経の持ち主にとっては拷問でしかない。それが電車から降りた後もしばらく続くから厄介だ。まだ二十歳前の時の私でさえもこの状況に堪えられず途中下車してホームで吐いてしまったことがあるくらいだから60歳を過ぎた今の私が同じ状況に置かれたらいったいどうなるのか。
 数年に一度、用事で東京へ行くことがあるが混雑する時間に無理して電車に乗ることは避け、空いた電車が来るまで気長に待つことにしている。4、5年前に用事で東京へ出かけたときだ。中央線の車内で正面に座った老人が入れ歯をはずしてティッシュで丁寧に拭き始めた。別に見たくて見ているわけではないがなんだか見てはいけないものを覗き見ているようなで後ろめたい気持ちになる。こういう時、公共交通機関を利用することの息苦しさを感じる。
 拭き終わった入れ歯をカポリを口に戻した瞬間に目が合ってしまい気まずい思いをしたが、老人は気に留める様子もなく、腕を組み、窓ガラスに頭を持たれ、足を組み、静かに目を閉じた。見たくて見ているわけではないが、どうしても視線が老人に向いてしまう。眠くもないのに目をつぶるのもなんだか白々しい気もして、車内を見渡してみるがそれはそれでまたわざとらしい気もする。足を組んでみたり腕組みしたりゴソゴソと落ち着かない気分が続く。窓の外の景色を眺めてみると並走する電車のパンタグラフに、昔は4本足で踏ん張っていたのが今では一本足で立っている。4本足で移動する猿から2本足で歩く人への進化よりもはるかに速いパンタグラフの進化に感心するも並走はじきになくなり、あとはビルの壁面ばかりの都内の車窓の景色のつまらなさといったらない。正面に座るお爺さんは相変わらず腕を組み、窓ガラスに頭を持たれ、足を組み、目を閉じている。電車の揺れにシンクロして組んだ足が揺れている。所在ない。出来れば席を移動したいくらいだが、私が移動した後その老人が目を覚ました時に別の席に移動した私を見てどう思うか。そう考えると移動もそう簡単にはできない。いや、もしかしたらこの老人は目を閉じてはいるが眠っているわけではなくただ目を閉じているだけで、移動している私の気配を感じてどう思うか。あるいは目を閉じているようで実は薄目を開けてこちらを見ているかもしれない。そんなどうでもいいことばかり想像してしまう。なんでこんなことになってしまったのか。嫌々金払って乗らされている電車内でこんな思いまでしなければならないのかと思うとだんだんと腹が立ってくる。

 ここにきてこの話はあまり面白くないことに気付いた。だが、一度始めた話は、放尿を中断することができないのと同じで、つまらないなと思っても中断することができないものである。だから最後まで書こうと思うが、読まされる方にとってはこれほど迷惑なこともないと思う。だからつまらないと思ったら遠慮することなく読むのを中断していただいて構わないが、最後に面白いオチが付いているかもしれないので読むのを中断するのが賢い選択かどうか、こういうこともあるので読む人のセンスが問われるものでもある。ただ、大概に於いて書き手が最後に面白いオチがどうのこうのと書いてる時点でつまらないまま終わってしまう場合が多い。

 ときどき差し込む午前10時の陽で汗ばむ背中。レールを刻む音に混じってコンプレッサーの回る音だけが空しく響く。暫くそんな時間が続いたが、お爺さん、先程と同じ姿勢のまま口の中でカラコロカラコロと入れ歯を鳴らし始めた。薄目を開けて僅かに瞬きをしながらカラコロカラコロと入れ歯を鳴らしている。リズミカルにカラコロカラコロと鳴る入れ歯の音に合わせるかのように瞼の膨らみが左右に動いている。このリズミカルな入れ歯の音はどうやって鳴らしているのかが関心事になってくる。噛み合わせの悪くなった入れ歯と歯茎の間に舌で突くような癖でもついているのだろうと思うが、カラコロカラコロと繰り返されるリズミカルな音は舌を上手く使って入れ歯を回転させているかのようだが、実際口の中で入れ歯を回転させることなどできるとは思えない。どうなんだろう?という変な関心が頭の中をカラコロ回っている。リフレインは美しいメロディーが付けば心地良いが入れ歯をリフレインで鳴らされても耳障りなだけだ。カラコロと鳴らしている間、おじいさんの顎があまり動いていないところが不思議である。
 オチはない。


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